要件を満たした遺言書、のハズが

 先日のコラムで「遺言書には厳格なルール(要件)がある」と書きましたけれど、形式的な要件を満たして作成された遺言書であってもなお、無効なものと扱われてしまう可能性が。その線引きの基準は「遺言作成者の意思能力の有無」にあります。
 法律用語としての意思能力を解説するとそれだけで本が一冊かけてしまうので、ざっくりと遺言相続に絡む限りで表現すると、「遺言作成者の意思能力の有無」とはつまり、遺言をする人が遺言書の作成当時に認知症を患っていたか否かということ。認知症の程度にもよりますが、自らの遺言が遺族にどのような影響を与えるかを正常に認識できないような判断能力の下で作成された遺言書は、意思表示としては無効となってしまうのです(民法第3条の2)。
 もちろん、認知症になってしまったとしても、判断能力が一時的に回復したときに医師2人以上が立合いすることを条件に、遺言を有効に行うことが認められています(民法第973条)。しかし、周囲から認知症を疑われることで遺言書を有効に作成するハードルがグッと上がってしまうことを考えれば、終活としての遺言書に取り組む時期は早めに決断するのが良いのかもしれません。